栄養コンシェルジュ新着情報:柳沢正史教授が2026年ラスカー賞を受賞|オレキシン研究から考える「睡眠」と身体の仕組み
2026年9月10日
「最近、しっかり眠れていますか?」
毎日当たり前のように繰り返している「眠る」と「目覚める」。
しかし私たちが眠っている間、そして目覚めて活動している間にも、脳や身体ではさまざまな仕組みが働いています。
そんな「睡眠・覚醒」の仕組みを理解するうえで重要な発見をした日本人研究者に、世界的に権威のある医学賞が贈られることになりました。
2026年9月9日、米国ラスカー財団は、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の柳沢正史教授と、米国スタンフォード大学のEmmanuel Mignot(エマニュエル・ミニョー)教授に、2026年アルバート・ラスカー基礎医学研究賞を授与すると発表しました。
今回評価されたのは、覚醒維持に重要な神経ペプチド「オレキシン」の同定と、オレキシンの欠乏がナルコレプシーにおける制御できない眠りを引き起こすことを明らかにした研究です。
「オレキシンとは何なのか?」
「なぜ睡眠の研究で世界的な医学賞につながったのか?」
そして、私たちが毎日繰り返している「眠る」「目覚める」の裏側では、いったい何が起こっているのでしょうか。
今回のニュースを入口に、人の身体の面白さを一緒に見ていきましょう。
まずチェック|「睡眠」について、どれくらい知っていますか?
私たちは人生の中で、非常に多くの時間を睡眠に使っています。
それほど身近な行動でありながら、「なぜ眠くなるのか」「どうして目覚めていられるのか」と聞かれると、説明するのは意外と難しいものです。
たとえば、
「眠る」という状態は、単純に脳の活動が止まっているだけなのでしょうか。
「目覚めている」という状態は、どのように維持されているのでしょうか。
そして、睡眠と覚醒の切り替えがうまくいかなくなると、身体では何が起こるのでしょうか。
今回のラスカー賞につながった研究は、そんな睡眠・覚醒の仕組みを分子レベルで理解するための重要な道を開きました。
その中心にあるのが「オレキシン」です。
柳沢正史教授らが2026年ラスカー賞を受賞
ラスカー賞(Lasker Awards)は、1945年に創設された医学・生命科学分野における世界的に権威のある賞です。
今回、柳沢正史教授とEmmanuel Mignot教授が受賞した「アルバート・ラスカー基礎医学研究賞」は、基礎医学に大きな貢献をもたらした研究者へ授与されます。
ラスカー財団は2026年の受賞理由として、覚醒を維持する脳内ペプチド「オレキシン」の同定と、オレキシン欠乏がナルコレプシーにおける制御できない睡眠を引き起こすことの発見を挙げています。
筑波大学も今回の受賞について、「覚醒維持を促す神経ペプチド・オレキシンの発見と、オレキシンの欠乏により過眠症・ナルコレプシーが発病することの解明」が評価されたと発表しています。
1990年代から積み重ねられてきた研究が、約30年近い時を経て世界的な医学賞として改めて評価されたことになります。
「オレキシン」とは何なのか?
オレキシン(orexin)は、主に脳の視床下部に存在する神経細胞でつくられる神経ペプチドです。
柳沢教授らは1998年、オレキシンとその受容体について科学誌『Cell』に報告しました。
興味深いのは、オレキシンが最初から「睡眠の物質」として発見されたわけではないことです。
研究当初、オレキシンをラットの脳内に投与すると摂食行動が促進されることなどから、食欲を意味するギリシャ語「orexis」に由来して「orexin」と名付けられました。
ところが、その後の研究によって思いがけない役割が見えてきます。
柳沢教授らがオレキシンをつくれないマウスを調べたところ、活動期の覚醒が断片化し、突然脱力するなど、人のナルコレプシーに似た特徴を示すことが分かったのです。
研究チームはこの成果を1999年に『Cell』へ報告しました。
「食欲に関係するのではないか」と考えられていた分子から、「覚醒を維持する」という重要な仕組みが見えてきたのです。
科学研究の面白さを感じさせる展開ではないでしょうか。
オレキシンとナルコレプシーはどうつながった?
同じ頃、米国スタンフォード大学のEmmanuel Mignot教授らは、遺伝性ナルコレプシーを発症する犬について研究していました。
そして1999年、ナルコレプシーを発症する犬に「オレキシン2受容体」の遺伝子変異が存在することを『Cell』で報告しました。
柳沢教授らは「分子」から研究を進め、Mignot教授らは「ナルコレプシー」という疾患から研究を進めていました。
異なる入口から進められていた研究が、偶然にも同じオレキシン系へたどり着いたことになります。
さらにその後、人のナルコレプシーについてもオレキシンとの関係を示す研究が積み重ねられていきました。
筑波大学によると、ナルコレプシーは日中の耐えがたい眠気やレム睡眠異常、情動性脱力発作などを起こす過眠症で、2,000~3,000人に1人が発症する睡眠障害とされています。
私たちが普段、意識することなく維持している「目覚めている」という状態。
そこにも、オレキシンという分子をはじめとした精巧な身体の仕組みが関わっているのです。
基礎研究から「睡眠障害の治療」へ
今回の受賞で注目したいのは、オレキシンの発見が睡眠・覚醒の仕組みを明らかにしただけで終わらなかったことです。
その後の研究は、睡眠障害に対する治療薬の開発へとつながりました。
オレキシンには覚醒を維持する働きがあります。
そこで、オレキシンが受容体へ作用するのを妨げて覚醒を抑える「オレキシン受容体拮抗薬」が開発され、現在では不眠症治療に用いられています。
反対に、オレキシンの働きが不足しているナルコレプシーでは、オレキシン受容体を刺激する「オレキシン受容体作動薬」という逆方向からのアプローチも研究・開発されてきました。
2026年には、オレキシン受容体作動薬がナルコレプシー治療薬として承認されるまでに発展しています。
1998年のオレキシン発見から約28年。
一つの基礎研究が、
「発見する」
「身体での働きを調べる」
「病気との関係を明らかにする」
「治療へ応用する」
という長い研究の積み重ねを経て、実際の医療へつながっていきました。
「眠る」「目覚める」から見えてくる、人の身体の面白さ
今回のニュースを見て、改めて感じることがあります。
人の身体は、知れば知るほど面白い。
私たちは毎日、食べ、眠り、身体を動かしています。
あまりにも当たり前なので、普段はその一つひとつについて深く考えることはないかもしれません。
しかし、その背景では神経、ホルモン、消化・吸収、代謝など、さまざまな仕組みが絶えず働いています。
「なぜ眠るのだろう?」
「なぜ目覚めていられるのだろう?」
そんな素朴な疑問を突き詰めていくことで、身体の新しい仕組みが明らかになり、それが新しい医療につながることもあります。
栄養学についても同じです。
「この食品には、どんな栄養素が含まれているのか」
それを知ることは大切です。
しかし、そこからさらに、
「食べたものは、身体の中でどうなるのだろう?」
「どこで消化・吸収されるのだろう?」
「吸収された栄養素は、どのように代謝されるのだろう?」
「なぜ、この人にはこの食品を提案するのだろう?」
と考えていくと、栄養学は単なる暗記ではなくなります。
身体の仕組みとつながった瞬間、栄養学はもっと面白くなります。
健康情報が簡単に手に入る時代に必要なこと
インターネットやSNS、そして生成AIの普及によって、健康や栄養について調べることは以前より簡単になりました。
「睡眠に良い食べ物は?」
「痩せるためには何を食べればいい?」
「この栄養素にはどんな働きがある?」
検索すれば、数秒でたくさんの情報が表示されます。
だからこそ、これから大切になるのは「情報を知っていること」だけではありません。
その情報は、どのような研究から得られたものなのか。
どこまで明らかになっているのか。
どのような対象者について確認されたものなのか。
そして、目の前の人にそのまま当てはめてもよいのか。
情報が増えるほど、それを読み解き、考え、適切に使う力が重要になります。
今回のオレキシン研究も、一つの研究だけですべてが明らかになったわけではありません。
多くの研究者が長い年月をかけて知見を積み重ね、睡眠・覚醒の理解を少しずつ前へ進めてきました。
科学を学ぶということは、「答えを覚えること」だけではなく、「なぜそう考えられるのか」を理解することでもあります。
栄養を「暗記」から「理解」へ|栄養コンシェルジュ®という学び
一般社団法人日本栄養コンシェルジュ協会では、栄養を単なる食品や栄養素の暗記で終わらせないことを大切にしています。
食べ物を「良い」「悪い」で分けるのではなく、身体の仕組みを理解し、目的に合わせて食品を選択する。
そのために、消化・吸収、栄養素の働き、代謝、身体組成などを体系的に学んでいきます。
そして、学んだ知識を自分だけが理解して終わるのではなく、目の前の人に合わせて「伝えられる」「提案できる」ところまでつなげていく。
これが栄養コンシェルジュ®で大切にしている学びです。
パーソナルトレーナーやインストラクターなど運動指導に携わる方、医療・美容・教育分野で人の健康を支える方はもちろん、管理栄養士・栄養士の学び直しとしても活用されています。
「身体って面白い」が、学びの入口になる
柳沢正史教授らによるオレキシン研究は、「眠る」「目覚める」という私たちにとって身近な現象の背景に、どれほど奥深い身体の仕組みが存在しているのかを教えてくれます。
そして今回のラスカー賞は、長年にわたり睡眠科学を前進させてきた研究者の皆様の積み重ねが世界的に評価された、非常に喜ばしいニュースです。
人の身体について知ることに、終わりはありません。
だからこそ、
「身体って面白い」
「もっと知りたい」
その気持ちを、ぜひ大切にしてほしいと思います。
そして、その興味が「食べること」「栄養」へ向いたときには、栄養学を一つひとつの知識として覚えるだけではなく、身体の仕組みから学んでみてください。
「この食品には何が入っているのか」から、「食べたものが身体の中でどうなるのか」へ。
「何を食べればいいのか」から、「なぜ、それを選ぶのか」へ。
栄養コンシェルジュ®講座では、そんな栄養学の面白さを、基礎から体系的に学んでいきます。
健康についてもっと深く学びたい方。
今の仕事に栄養という新しい専門性を加えたい方。
そして、学んだ栄養を誰かのために役立てたい方。
栄養を「知っている」から、「考えて、選んで、伝えられる」へ。
栄養コンシェルジュ®から、身体と栄養を学ぶ新しい一歩を始めてみませんか。
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参考文献・参考資料
Albert and Mary Lasker Foundation. 2026 Albert Lasker Basic Medical Research Award. Orexin—a brain peptide that maintains wakefulness. 2026.
筑波大学.2026年アルバート・ラスカー基礎医学研究賞.2026年9月9日.
T Sakurai et al. Cell. 1998 Feb 20;92(4):573-585. Orexins and orexin receptors: a family of hypothalamic neuropeptides and G protein-coupled receptors that regulate feeding behavior.
R M Chemelli et al. Cell. 1999 Aug 20;98(4):437-451. Narcolepsy in orexin knockout mice: molecular genetics of sleep regulation.
L Lin et al. Cell. 1999 Aug 6;98(3):365-376. The sleep disorder canine narcolepsy is caused by a mutation in the hypocretin (orexin) receptor 2 gene.
FAQ|2026年ラスカー賞・柳沢正史教授・オレキシンと栄養コンシェルジュ®
Q1.2026年ラスカー賞を受賞した柳沢正史教授は、どのような研究で評価されたのですか?
筑波大学の柳沢正史教授とスタンフォード大学のEmmanuel Mignot教授は、覚醒維持に重要な神経ペプチド「オレキシン」の同定と、オレキシン欠乏がナルコレプシーにおける制御できない眠りにつながることを明らかにした研究で、2026年アルバート・ラスカー基礎医学研究賞を受賞しました。
Q2.オレキシンとは何ですか?睡眠とどのような関係がありますか?
オレキシンは、主に脳の視床下部に存在する神経細胞でつくられる神経ペプチドです。柳沢正史教授らが1998年に報告し、その後の研究によって覚醒状態を安定して維持するうえで重要な役割を持つことが明らかになりました。
Q3.オレキシンとナルコレプシーにはどのような関係がありますか?
柳沢教授らは、オレキシンを欠損したマウスがナルコレプシーに似た特徴を示すことを報告しました。また、Emmanuel Mignot教授らは遺伝性ナルコレプシーの犬からオレキシン2受容体遺伝子の変異を発見しました。これらの研究が、オレキシンと睡眠・覚醒の関係を理解する大きな手がかりとなりました。
Q4.オレキシンの研究は不眠症の治療にも活用されていますか?
はい。オレキシンによる覚醒シグナルを抑える「オレキシン受容体拮抗薬」が開発され、不眠症治療に使用されています。一方、ナルコレプシーではオレキシン受容体を刺激する方向からの治療法も研究・開発されており、基礎研究の成果が実際の医療へとつながっています。
Q5.睡眠について学ぶときに大切なことは何ですか?
「よく眠るには○○を食べればよい」といった単一の情報だけで判断せず、睡眠・覚醒を支える身体の仕組みや、研究でどこまで確認されているのかを理解することが大切です。健康情報は、科学的根拠とその限界を確認しながら活用する必要があります。
Q6.栄養コンシェルジュ®はどのような栄養資格ですか?
栄養コンシェルジュ®は、栄養学や身体の仕組みを学び、目的に応じた食品選択や栄養コンサルティングへつなげるための専門資格です。食品や栄養素を暗記するだけでなく、「なぜその食品を選ぶのか」を身体の仕組みから考えることを大切にしています。
Q7.栄養コンシェルジュ®では食品を「良い・悪い」で判断するのですか?
栄養コンシェルジュ®では、食べ物を単純な「良い・悪い」で分類するのではなく、目的に合わせて選択することを重視しています。独自の「食品カテゴリーマップ®」を活用し、食品の特徴を整理しながら、身体や目的に応じた食品選択を学びます。
Q8.栄養コンシェルジュ®と他の栄養資格との違いは何ですか?
栄養資格はそれぞれ目的やカリキュラムが異なるため、単純な優劣では比較できません。栄養コンシェルジュ®では、食品や栄養素の知識に加えて、消化・吸収や代謝など身体の仕組みを体系的に理解し、その知識を実際の食品選択や栄養指導へつなげることを重視しています。
Q9.管理栄養士や栄養士でも栄養コンシェルジュ®を学ぶ意味はありますか?
はい。管理栄養士・栄養士が持つ専門知識を、食品選択や栄養コンサルティング、対象者への伝え方と結びつけて整理する学びとして活用できます。栄養コンシェルジュ®講座では、管理栄養士をはじめ、医療・運動・美容・教育など幅広い分野の方が学んでいます。
Q10.AIで栄養情報を調べられる時代に、栄養学を学ぶ必要はありますか?
AIによって栄養情報を探すことは簡単になりましたが、その情報の根拠や適用範囲を判断し、目の前の人に合わせて活用するには体系的な知識が必要です。栄養コンシェルジュ®では、情報を覚えるだけではなく、身体の仕組みから考え、食品を選び、人に伝える力を養います。
一般社団法人 日本栄養コンシェルジュ協会
「栄養で人と未来を輝かせる」を理念に、科学的・医学的根拠に基づいた栄養知識の普及と、現場で活用できる実践的スキルを持つ人材の育成に取り組むヘルスケア教育機関です。 また、医療・運動・心理・生活科学など多分野の知見を統合し、本質的な健康支援を実現するための「栄養哲学」の研究にも取り組んでいます。 認定資格「栄養コンシェルジュ®」は、医療従事者やアスリートなど多分野の専門家が監修した信頼性の高い栄養学資格で、基礎から応用まで体系的に学べるカリキュラムを提供しています。 さらに資格取得後も、最新の研究情報の共有や学習機会の提供を通じて継続的な学びを支援し、資格取得者の生涯学習と専門性向上をサポートしています。


